習慣の理解を深めてランニングを 生活の中へスムーズに組み込もう!
前回の記事では本書の1章、「意志力は生まれつき、決まっている?」を紹介しました。そこではまず意思の力とは何かを考え、有名な実験や脳の認識などを考慮して、意識を呼び出す回数が起因していると仮説を展開し、最終的に意思の弱さを克服する一つの方法論として「意識を呼び出さず、ほとんど考えずにする行動」を挙げ、それが「習慣」なのだと定義するところまでいきました。
そして続く第2章では本題となる「習慣」を掘り下げていくことになります。どのように我々は一々意識を呼び出さずに行動すること=習慣を身に着けていけるのか。とても興味深い内容ですね!
「2章 習慣とは何か?」よりの抜粋です。
「あなたの習慣は何ですか?」と問われたら「○○を習慣としています」というような文脈で答えられるかもしれませんが、「習慣とは何か?」と問われたら少し考えてしまいますよね。
著者は習慣を上記のように定義した上で、より客観的に捉えるために習慣を次のように分解します。
習慣の3つの要素
- トリガー
- ルーチン
- 報酬
このように分解するのか!と感心しました。一般的には2のルーチンが習慣とイコールだと思っている人が多いと思います(自分はそう思っていました)。ルーチン(routine)を英和辞書で引くと「決まりきった仕事、日常の仕事、慣例、手順、機械的操作」とあります。習慣という言葉はないものの近いイメージです。関心したのは、その前後にトリガーと報酬という要素をはさんでいるところです。言い換えるとスイッチとモチベーションといったところでしょうか。
習慣化=実際に脳を変化させること
・・・ドーパミンを媒介にして作動するこの「報酬系」と呼ばれるシステムは、古い回路でラットも人間も変わらない。そして食事、セックス、仲間との交流など生存に役立つ行動をすると快感を感じることができる。
そしてこの行動と快感の結びつきは、行えば行うほど強化されていく。神経細胞のつなぎ目であるシナプスで、信号を受け取る「スパイン」という出っ張りは、何度も信号を受けると、実際に大きく成長する。
何かを習慣にすることは、講演を聴いたり、短時間のセミナーに参加して「意識を変える」ことなどとはまったく違う。繰り返し何度も実践することによって、実際に脳の神経細胞を書き換えることである。
ここでは「報酬」とはある種の「快感」ということだと言っています。即時的に得られる快感はやはり大きなモチベーションとなるでしょう。
そこで、先に得られる何を快感として想像できるかがポイントとなってくると言えます。マシュマロテストで言えば、すぐに食べて食欲を満たすことを快感と捉えるか、我慢して2個もらえることの達成感や満足感を快感と捉えるか。第1章で登場したクールシステムを稼働させ想像力を働かせれば後者の選択肢も可能となるでしょう。
ランニングをこれから習慣とする人を想定してみると、走ること自体は快感を得るというよりは逆にツラい、面倒だということで直観的には快感にはつながらないと思いますが、走ったあとの爽快感や水分補給などを快感と想像できればモチベーションをあげることができると思います。
自分の話ですが、ランニングを習慣化する以前は休日に銭湯に行ってサウナに入って汗を流すのが習慣となっていましたが、そのモチベーション(報酬、快感)は汗をかいた後の水分補給(といってもビールやハイボール)でした。その後、運動不足解消のためにジョギングを始め、徐々にランニングにはまっていったという経緯があります。そこでもランニング後の爽快感と水分補給や食事(をおいしく食べれること)がルーチンの先のモチベーションとなっていました。
はじめのうちは報酬は快感のような感覚的なものがよさそうですね。そこで「スパイン」が強化されると自然と身体が動くようになるのでしょう。また報酬を後付けで追加することもよりスパインを強化することになると思います。例えば自分の場合、身体を動かすことがある程度習慣化した後に、ランニングやジムで汗を流した後のシャワーでさっぱりすること(爽快感)が快感と感じるようになっていきました。そしてさらにスパインが強化されランニングやジムに行くことが「快感」>「面倒、ツラい」となっていったのだと思います。
5種類のトリガー;(例)お酒が飲みたるなるトリガー
- 場所(帰り道にあるコンビニ、友人の結婚式の会場)
- 時間(仕事が終わった夜、日曜日の昼間)
- 心理状態(残業続きでストレス、ミスして落ち込む)
- 自分以外の人物(素敵な女性とデート、久しぶりの同窓会)
- 直前の行動(運動で汗を流した、温泉に入った)
・・・やめたい習慣の場合はこれらを特定すること、身につけたい習慣の場合はこれらを作ることが大切になってくる。
やめたい習慣の場合にトリガー(スイッチ)を特定するとは、意識的にそのスイッチの入ることを極力避けるか、そのスイッチが入ったときに違うルーチンをするよう意識するかということです。要は習慣が「意識を呼び出さず、ほとんど考えずにする行動」なわけなので、スイッチを特定できたら、そのスイッチに対して「いちいち意識を呼び出して、よく考えてする行動」にしていけば習慣化から解かれるということでしょう。
トリガーをつくる例として、ランニングや運動を習慣としたいとすれば、
- 場所:近くでお気に入りのジョギングコース、仕事帰りに寄れるジムを見つける
- 時間:休日の朝食後に走る、平日の2日をジムに行くと決める
- 心理状態:モヤモヤしたら走ったりジムに行って汗を流して発散できると認識する
- 自分以外の人物:一人でも、決まった日時にジムに行くと自然と顔見知りができ挨拶くらいはするでしょう、プライベートな領域に踏み込まずともお互いがんばろうという意識が芽ばえます
- 直前の行動:座りっぱなしや立ちっぱなしの後は体を動かした方がいいよ!と認識する
自分でのトリガーはこんなところでしょうか。
ルーチンが心を調律する
ルーチンの良い点は、いつもの行動を取ることから気分を変えることができるということ。乱れた心を調律する、チューナーのような働きがルーチンにはある。
・・・
イチローはしんどい時の乗り越え方として、「日々やっていることを同じようにやること」を大切にしているそうだ。「心から持っていくのは難しいですが、身体をいつもと同じように動かせば、そのうちに心がついてくる。心が積極的になれない時のテクニックです」と言っている。
いつもと同じ肉体の動きをすることで、それに合わせて心が調律されていく。衝動買いした時など何かを「欲しい」と思ったときは、呼吸が荒くなっている。だから意識して呼吸をゆっくりにすると欲求も収まってくる。ゆっくり呼吸する瞑想を習慣にしているとこういうこともできる。
ルーチンに心を調律する役割があるとすれば、現代にランニングやヨガが流行っていることが妙に納得できると思います。ランニングを習慣にすることがうつ病の改善、予防に向いているという記事を雑誌で読んだ覚えがありますが、これも納得です。
また、自律神経の調整に深呼吸が有効だという記事を以前に紹介しましたが、これもルーチンという切口で習慣化することも心の調律に有効ですね!
ストレスホルモンのポジティブな働き
・・・走ることの報酬はストレスホルモンである「コルチゾール」にあるのではと考えている。ストレスホルモンなんて、ただの悪者のようなイメージがあるがどういうことだろうか?・・・
・・・コルチゾールは、特に肉体的なストレスから生まれるが、コルチゾールには気分を高揚させ、集中力を高め、場合によっては記憶力も高める効果がある。・・・
ちょうどよい量のコルチゾールは、ドーパミンと相互作用し、強い満足感や超越的な陶酔感を起こす。・・・深い満足感を味わうためには、ドーパミンだけではダメ。ストレスを感じることで分泌されるコルチゾールと組み合わされることで、強烈な満足感を得られるというのだ。ぼくもランニングを始めると10分づらいから身体がいつもの感覚とは切り替わりはじめ、身体を動かすこと自体が喜びになってくるのを感じる。生物は余計なカロリーを抑えるほうが生き延びるためには都合がいいはずで、人間はおそらく通常このモードでできるだけ楽をしたいと思っている。しかし、しばらく走り続けると、別のモードに切り替わっていくような感覚がある。
悩みや不安は薄れ、エネルギーがどこからか湧き、普段の生活では感じないようなやる気や自信の高まりを感じる。息が上がるほどの状態はもちろん苦しいが、こんな風に適切に肉体的なストレスをかけると、運動した後も満足感がしばらく続く。
上記の引用の内容は、ランニングを習慣にしている人のほとんどが感じていることではないでしょうか。それを生理学的に端的に解説し、著者の主観でわかりやすく示している文章です。
そうです。走り始めの10分くらいはしんどいのが当たり前なのです。その後もしんどいと感じていれば、それは思い込みなのです。なので、走り始めて10分後はそろそろドーパミンが分泌されてしんどさを感じさせているコルチゾールと組み合わせって楽になってくるぞと思えばいいんです。そのうちに走り始めのしんどさもその後の別モードに切り替わる前のトリガーとなっていくのでしょう。
そしてランニング後の爽快感がランニングを習慣とすることの報酬につながっていくのです。さらにそしてレースに出るようになると達成感や成長しているときは満足感が報酬となってきます!
習慣は、子どもにとってのビール
習慣を身につけることは、子どもがビールを好きになる過程と同じで、最初はただ苦いだけだ。その苦味を我慢して何度も試していくうちにいつしかいちばんの楽しみになっていたりする。
習慣を身につけることは、意志力を鍛え、誘惑を断てるようになることなどではない。自分が感じられる「報酬」と「罰則」を書き換えるということ。何度も何度も行動することで、実際に自分の脳に変化を起こすということだ。
ビールが苦手な人は分かりづらいかもしれませんが、好きな人や飲める人には非常にわかりやすい習慣化の説明ですよね!
確かにはじめてビールを飲んで「ウマい!」という人はいないと思います。だけど、いつしかそれがウマいと感じてしまうから不思議。
苦いものや渋いものをたしなむのは「大人の味」とかいいますよね。子供は甘いものが好きだからでしょうが、具体的な「大人の味」って何でしょうね。おおよそ「大人の味」って苦味や渋みそのものではなく、その味に慣れてくると味わえる、その味の後にくる爽快感や刺激を楽しむことなのでしょう。
そういえば、自分は子供のころは塩辛や魚の刺身はあまり好きではありませんでした。嫌いまでいきませんが、好んでは食べませんでした。いわゆる生ぐさいものは敬遠していました。が、酒を飲むようになってから大好物となったのです。
子供のころの食べ物の好み(報酬)はご飯にあうものだったような気がします。今はそれが毎日夜は晩酌するようになり酒に合うものに書き換えられてしまったようです。
そう思ってみると、自分も30代まではランニングを習慣としようとは思ってもみませんでした。走り始めたのは運動不足を強く感じたからでした。それがそのうちに運動不足解消という目的よりはストレス解消や爽快感を感じることが目的となっていきました。
ビールがウマいと感じるようになったのも、ビールの味そのものというよりはのど越しによる爽快感やグビグビ飲んだ後のプハーという解放感、飲んだ後のほろ酔い感によるストレス解消など副次的なものが報酬となって脳が変化したのでしょう。
だから、これからランニングを習慣にしようと思う人は最初からランニングが気持ちいいと思うのは間違いです。苦いビールを飲み始めると思って始めるべきなのです。最初はツラいのが当たり前、その後の爽快感を感じれるまでは耐えるしかないのです。でも得られるものは想像以上ですから!
また長くなったので第3章以降は次の記事とさせてください…。
ぼくたちは習慣で、できている。